イギリスツーリングレポート
これはイギリスのレンタルバイク屋さん(スクータバウト)のモニタレンタルでツーリングしたときのレポートでアウトライダー誌に掲載されたものです

<走行データ>
使用バイク HONDA NT650 (Deauville)
日程 2000/4/10〜2000/4/13
走行距離 約1000マイル(1600k)
ガソリン 約53L
燃費 約30k/L
費用  宿泊費 約9000円(2泊)
   
ガソリン代 約8000円
  食費その他 約43000円

         計 60000円


イギリスツーリング

20世紀最後の海外旅行先として妻と二人でヨーロッパにでも行こうかなと考えていました。そこにモニターツーリングの当選の知らせが入り、計画が一気に現実的なものになりました。スコットランド方面には以前から興味はあったし、妻もロンドンで買い物をしたいと言っていたので今回は現地ではお互いに自分のやりたいことをしよう、ということにしました。
チケットを押さえ、ホテルを探す。インターネットで情報を集め、去年北海道ツーリングで知り合った英国人ライダーに質問メールを送る。
どうか天気に恵まれますように・・・・。

 4月10日月曜日 晴れ

(ロンドン→チェスターフィールド)
目を覚ましてすかさずカーテンを開け天気を確認。晴れている。とりあえず今日は大丈夫そうだ。
朝食をすませ、地下鉄でバイク屋さんに向かう。簡単な自己紹介のあと保険の書類にサインしバイクの説明を受ける。バイクはHONDAのNT650。ツーリング向けの楽に乗れそうなバイクだなぁと満足。早速荷物を積み込み出発!
モーターウェイ(以下高速)を目指しロンドン市内を抜けていく。バイクと英国式交通ルールに慣れようと適当に走っているうちに道に迷い、約1時間の市内見物。ようやく高速(M1)にたどりつくことができた。高速に乗る前にガソリンを入れておかなければならない。シェルやエッソもあったが、ここはやはり日本であまり見かけないBPに入ってみることにした。北海道ツーリングでホクレンに入りたくなるような感じかな。セルフ給油は初めてだったので店員さんに教えてもらう。「入れ終わった後はこうやってホースを持ち上げてホースの底にたまっているのも出すんだ」のようなことを英語で説明してくれた。聞いて得した気分になる。
高速は広く車も少なく走りやすい。こんな道が延々と無料で走れるのはすばらしいことだ。
「サービスエリア1m」の案内板。一瞬メートルと勘違いしそうになったがこの国では距離はマイル表示である。遅ればせながらスピードメーターやトリップメーターもマイルで表示されていることに気付く。距離の表示を見るたびにキロ換算の筆算式が脳裏に映る。脳の距離感覚がメートル/キロで刷り込まれてしまっていることに気付かされた。


高速の風景は牧草地帯に変わり、左手には鉄道が並行している。タイミングよく長ーいディーゼルの貨物列車が抜かしていった。実に絵になるシーンである。「だれかこの抜かされいてる瞬間を空中から撮影してくれないかなー」
やがて鉄道もそれていき牧場や花畑のくりかえす景色が続く。気持ちがいい。天気も風景も文句のない幸せな時間であった。と、まあここまではご機嫌で走っていたのであるが、旅にトラブルはつきものだった。

助手席の窓越しに僕に向かって大声で何か言っている車に追い越され、直感的に荷物に何かが起こっていると感じた。おそるおそるリアを確認してみると、ロックしたはずのパニアケースのフタが開いてしまっているではないか!路側帯に停め恐る恐る中を見ると、そこには何も残っていなかった。テープでフタを固定し、走りながら何を入れていたか思い出す。靴下、タオル、下着、、、かくしてイギリスの高速につまらないゴミを増やしてしまった。幸い予備の下着類は別のところに入れていたので買い足す必要はなかったが、この先毎日洗濯しなければならないはめになってしまった。
不運が口火を切ったように、天気も曇りはじめ、快適に流れていた高速も渋滞となった。現地ライダーに倣ってすり抜けで進んでいった。(このへんのルールは日本と同じだなぁ)
約1時間ほどすり抜けを続けて走ったが、事故のために高速は閉鎖されてしまっていた。一般道に出ることを余儀なくされてしまったのだが、一般道にも渋滞が続いている。
こんなことではるかスコットランド地方までたどりつくことができるのだろうか?初日でもあったのであまり距離も稼いでいないが、今日はそろそろ宿を探すことにする。今回のツーリングでは宿は予約しておらず、その日の調子で行ける所まで行く計画としていた。
薄暗くなりはじめたころチェスターフィールドという町に到着。手頃な安宿がなかなか見つからず、今日は少し高めのホテルにでも泊まるしかないかと思案しはじめた矢先、運良く道沿いにB&Bを見つけることができた。1階はパブになっている。シャワーを浴びた後、若者達のビリヤードの玉の響きをBGMに隅っこでビールを飲む。黒ビールがうまい。あまりおなかも空いていなかったので、ビール&つまみで夕食にして早めに寝る。

 4月11日火曜日 雨

外が明るみはじめた6時ごろに目が覚める、車の通る音が聞こえるが明らかに湿った路面を走っている音だった。けっこう降っている。しょげていてもしょうがないので覚悟を決めて完全防備で出発。昨日高速にばらまいたのが雨具でなくて良かったといいように考えよう。
雨の高速はペースも上がらない。だが限られたスケジュールなので、今日中にスコットランド入りをしなければ、目的の1つであるフォース橋をあきらめなければならなくなる。ひたすら走った。
スコットランド地方が近づくにつれ標高も上がってくる。同時に気温もみるみる下がり始め、雨はみぞれに、みぞれは雪にと変化していく、横風も強い。メットの中で「ジーザス」を連呼する。むなしくも雪は降りつづけ、気付いたら一面の雪景色になっていた。とりあえず写真撮影。防水カメラが役にたっている。
峠を越えると雪は雨に戻り気温も少し上がってきた。これ以上の防寒着は持っていなかったのでやれやれといったところだ。

緊張が解けると空腹感が押し寄せる。英国といえばフィッシュ&チップスということで、小さな町で専門店に入る。ところが注文してからこの店は持ち帰り専門店だと気付き仕方なしに寒い中ランチポイントを探す。街のはずれのバス停の小屋でかじかんだ手でむさぼるようにくらいつく。が、食べても食べても減らない。1/3ぐらい残してしまう。いったいこの国はジャガイモをどれだけ消費しているのだろう?
日の高いうちになんとかスコットランド地方に入り、雨も小雨になってきた。霧がかった牧草地帯というのも絵になるもんだ。(と書いてはみたがせっかく取得した長期休暇と旅費を考えるとやはりつらいものがある)
通過する小さな町々には石畳がひかれた通りも多い。古い建物に挟まれた石畳の上を走っていると、ヨーロッパをツーリングしている実感が湧いてくる。
適当に距離も稼げたのでこの辺で宿を探すことにする。ここはメルローズという街で欧風デザインのかわいい街である。インフォメーションで宿を押さえ街中を散歩し買い食いする。本当にきれいな街だ。B&Bも広くて清潔で、もてなしも昨日に比べると格段に違う。B&Bは同じ値段でも格差があると聞いていたが本当であった。
天気に悩まされているため夕食くらいは豪勢に取ろうと、ホテルのレストランを選んだ。サーモンやラム肉など現地メニューっぽい料理を注文し地ビールもいっぱい飲んだ。満足。食後にロンドンのホテルにいる妻に生存報告をして今日も早めに寝る。

 4月12日 水曜日 雨

テレビの天気予報によればここ2日間は雨らしい。しかも注意報クラスの激しい気候になるようなことを言っている。しかしここまで来たら、目的地であるフォースレイルブリッジを見ずに引き返すわけにはいかない。
貴族のような豪勢な朝食をごちそうになり、宿の飼犬と記念撮影のあと出発する。
少し道に迷ってしまったが昼頃にはフォース湾に到着。車用の吊橋と鉄道用の鉄橋が並んで湾をまたいでいる。豪快な眺めだ。
「これこれ、これを肉眼で見たかったんや」
と満足げにつぶやく。大きさだけならこれ以上のものは日本にもいくつかあるが、その独特のデザインと100年以上も前に作られたという事実が心を揺るがすのである。過去には観光地にあるモニュメントや風景には期待はずれのものも多かったが、この鉄橋は期待を裏切らなかった。一部工事のため建材で覆われていたのが少し残念だった。(後から聞いた話ではこの橋は古いため、常にどこかが工事中になっているらしい)ひたすら写真を撮った後、市街地に向かい買い物をする。しかし雨が強い。傘をさせないくらいに風も吹いている。
買い物と市内見物に時間をとられ中途半端な時間になってしまった。明日はバイクの返却日だ。もっとエディンバラで遊んでいたいけれども今日ここに泊まったら明日の夕方までに帰れるか分からない。悩んだ末、夕方までじっくり見物しナイトランでロンドンを目指すことに決めた。海外ツーリングでの夜の行動は禁物とは教わっていたが、幸い毎日たっぷり睡眠はとっているし夜も9時くらいまでは薄明るい。高速に乗ってしまえば何とかなるだろう。そうと決まればとりあえずビール。昼間からパブで飲み食いし、ぶらぶらしたあとカフェの濃い目のコーヒーで酔いを覚ます。
ガソリンを満タンにして、気合を入れて南を目指す。

高速にはたくさんのトレーラーが走っているが、そのデザインがヨーロッパ的でかっこいい。カラーリングが全体がまっ赤だったりまっ黄色だったりと楽しませてくれる。ロゴやイラストも興味をそそる。明るいうちはトラックウォッチングを楽しみながら走る。

日が暮れかける頃に急に風が吹き出した。地形の関係もあるのだろうが、今まで経験したことのない強風だった。横風だったため、煽られてバイクをまっすぐにしていられない。風にもたれながら恐る恐る走りつづけた。
やがて暗くなり風も少しは弱くなってきたが、こんどは気温が徐々に下がりはじめた。休憩の際は、まずトイレに駆け込み、手を乾かすドライヤーの温風で指先の感覚を戻す。その後カフェテリアで眠気覚ましのコーヒーを飲む。これを何度と繰り返しながらひたすらロンドンを目指した。
(イギリスの高速のパーキングは清潔で設備が整ってます。物価はやや高めですが、GSはもちろん24時間営業のファーストフードやホテルまで併設されていました)
時間が時間だけに高速上にはライダーが少なく、ちょっと寂しかった。深夜の3時ごろに入ったパーキングにたまたま休憩中の現地ライダーが2人いて、ほっとして下手な英語で話しかけてみた。彼らも同じくロンドンに向かっているらしい。お互いの旅の安全を祈り別れた。

ちょうど夜が明けたころに、ようやくロンドンに到着した。バイク屋さんはまだ閉まっているだろうから、早朝観光をすることにした。ロンドンブリッジ、ビッグベンなどの横を走っていると改めてイギリスを走っていたんだという実感がわいてくる。ひととおり名所を巡った後、バイクを返却に向かおうとするが例によって道に迷ってしまう。ロンドン市内の道は実に難しかった。

3日半と短い日にちで天気にもあまり恵まれない旅であったが、色々と経験ができて満足のいく日々を過ごせました。イギリスは英語の国で車も左側通行なので海外ツーリングの入門地としてはぴったりの国でした。今度は国境を越えるツーリングをしてみたいです。

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