北海道ツーリング
母と行く北海道〜ツーリング&登山〜
これは実の母親と行った北海道ツーリングと利尻岳登山のレポートでアウトライダー誌に掲載されたものです

     日程   平成10年6月19日〜27日
     走行距離 約1400キロ
     費用   約13万円
     燃費   約28キロ/L
     マシン  ヤマハAG200 スズキDF200

6月19日
窓を叩きつける雨音の目覚ましで起こされた。今日から十連休、待ちに待ったロングツーリングの幕開けである。バイクに乗りはじめてちょうど十年目になるが、僕のツーリングには雨がついてまわる。雨男である。だからこの嵐のような天気も、「ああまたか・・・」という感じでなのである。
今年のツーリングは北海道は利尻・礼文の旅。さらに日本百名山の一つ利尻岳の頂を制覇しようという計画である。おまけに、母(齢50超)を連れて行くことになっている。はじめは妹と行く予定であったが仕事の都合で行けなくなり、「花の浮島」のフレーズに魅せられたのか、それでは私がと母が参加することとなったのである。
北海道は過去二回訪れているが、バイクでの旅は今回が初めてである。自走でフェリー乗り場(舞鶴)まで行くことも考えたが、バイクライフにブランクのあった母といきなり都会の高速を走るのが恐かったので、行きはトラックで運ぶことにした。荷物を整え、和歌山までレンタカーを取りに向かう。雨の中、実家で母のバイク(娘からレンタル)を積み込み、続いて阪南市の自宅で自分のマシンを積み込む。慣れないロープワークで二台のバイクをくくりつけ、いざ舞鶴へ。雨も上がり予定より早く到着。母と母のバイクをフェリーターミナルで降ろし、レンタカーを返し(乗り捨て)に向かう。バイクを下ろしトラックを返したとたんに大粒の雨が降り出す。あまりのタイミングの良さ(悪さ?)に唖然とし、「俺はドリフターズのスタジオにでもいるのか?」と自問した。通り雨かと思いきや、無情にも止む気配を見せず降り続く。豪雨の中食糧の買い出しを済ませ、再び港へ。僕の雨男歴を知っている母が予想通り笑って待っていた。雨の中動き回る気もしないのでターミナル内で軽く食事を済ませて仮眠。
23時30分いよいよ出航。北へ向かうバイクは十数台いた。一番風呂で汗を流し、寝る。寝まくる。さらに寝続ける。

6月21日
フェリーは定刻通り小樽港に着岸。例によって小雨である。とりあえず小樽駅で上陸記念撮影を済ませ出発!しようとすると母が立ゴケしている。(この先大丈夫なのか?)荷物を少し引き取り、今日の目的地稚内をめざす。雨も上がり太陽は日本海を思いっきり照らしはじめた。大地の感動的な風景にシャッターを切り、牧草ロールで遊んだりしながら北上を続ける。
―潮の香りと牧草の薫りがアスファルトの上で交じる。そのアスファルトを走る雲の影がマシンを追い越していく・・・
来て良かった。早くも心はシネマのクライマックス状態になってしまっていた。
母のリクエストでかなり寄り道をしたが、夕方には稚内に間に合ったので温泉に入ってからユースにインする。ユースでは旅のつわもの共と少し話して寝る。

6月22日
朝一のフェリーで礼文島に向かう。二等客室は観光客がいっぱいで足の踏み場もなかったので、通路にビニールを敷いて仮眠。目が覚めると、母は滋賀県から来ていた主婦ライダーと友達になっていた。デッキで写真を撮り名刺交換をして別れる。上陸し、土産屋さんに荷物を預け島を縦断。礼文林道で出会った同じ和泉ナンバーのOFFライダーの話に魅了され、礼文滝までハイキングすることにする。足は疲れるが天気も景色もいい。小川の水を飲み、おやつを食べ、しばしひなたぼっこ。母は花の写真を夢中で撮り続けていた。紺色の海と丘陵の薄緑のハイコントラストな色彩が視界を覆う。腕時計の秒針もいつもよりゆっくり回っている。こんな時間の使い方は何年ぶりだろうか。和泉ナンバー君に感謝。
港に戻り土産を少し買って利尻島に向かう。明日は今回のツーリングでのメインである利尻岳登山の予定なので、登山口である北麓キャンプ場にテントを張る。今晩のメニューのクリームシチューを平らげた後、二キロ程先の温泉に入る。露天風呂からは明日チャレンジする利尻岳が夕焼けに染まりうす紅に輝いていた。
テントに戻って、明日の弁当用のおにぎりを作り、少量のウイスキーをくらって寝る。

6月23日
六月の北海道は日の出が早い。三時半頃にはもう明るみかけているので得した気分になる。五時前に起きて朝食をとり、六時すぎに山頂目指して出発。だんだんとキツくなってくるが、50も超えている母が遅れながらもついてきているのに感心する。山の斜面、道の傍らには名前はよく分からないが、かわいい花が何種類も元気に点々と咲いている。
コースタイム通りの5時間で頂を制覇し記念撮影。夕べ作ったおにぎりを食らい一服し、せわしなく下山をはじめる。母は上りより下りの方がキツイようで急にペースが落ちはじめる。おまけに10分おきくらいに高山植物を撮っているため、ペースを合わせるのに少し苦労。
無事キャンプ地に戻り、温泉で汗を流す。露天風呂からは数時間前に踏破した山が夕焼けに染まりそびえ立っているが、昨日とは見え方が違う。満足。
風呂の後は居酒屋でちょっとリッチな海の幸で一杯、二杯・・・。酔いさましに海岸を散歩する。ちょうど引潮だったので磯をうろうろしているとバフンウニを発見。迷わず2人でその場で食す。1個しか見つけられなかったがこれが美味。さらに港の食堂で帆立ラーメンを詰め込み、今日のシーフードはしごを締めくくる。下山後に2キロ減っていた体重も一瞬にしてリセットされたのであった。

6月24日
二連泊したテントを畳み、朝一のフェリーで稚内に戻る。宗谷岬を拝み、猿払、浜頓別・・・と北海道らしい地名を南下。砂浜にバイクを止め、オホーツク海を眺めながらコンビニ弁当を頬張る。今日も天気がいい。しばし昼寝をしながら、洗濯物を干すことにする。消波ブロックに寝そべり国道を眺めていると、酪農トラックやホクレンのタンクローリーが行き交っている。たまに通過するライダーは手を振ってくれたりする。なぜかこの素朴なひとときが今回の旅で一番想い出に残っている。
今日の寝床を美深に決め、マシンを進める。美深のキャンプ場には多くのテントが張られいて、横付けされているバイクのナンバーも沖縄から地元までと千差万別十人十色。温泉に入り、スパゲティとフライドポテトの夕食。明日は早朝から林道散策に行く予定なので、朝飯用のサンドイッチを作って早々と寝る。


6月25日
五時前に起きて林道に向かう。ダートが心配なので一人で行くことにし、母に留守番を頼む。
林道まではすぐだった。せせらぎの水で沸かしたコーヒーとサンドイッチを想像しながらのんきに走る。気のゆるみが事故を招くというのは本当であった。突然のカーブを曲がりきれずに転倒。オーバースピードだった。腕をすりむき、ハンドルが曲がる。ああ、やってしまった・・・。事故現場がちょうど小川の手前だったので川の水で傷の手当てをする。いつも応急グッズは携帯していたが、包帯&ガーゼの世話になったのはこれが初めてだった。反省しながら、それでもここまできたんだからコーヒーとサンドイッチを用意し、痛々しい朝食とする。予定のコースを省略しのんびりと田舎道を走る。廃線、じゃが畑、牧草地、単線を走る一両のディーゼル車など、北の国らしい景色を目とフィルムに焼き付け、テントに戻る。
テントを撤収し、再出発する。今日の予定は、美瑛・富良野である。今日も天気が最高にいい。旭川に入り、流行りのラーメンで昼食。ツーリングマップに紹介されているせいか、さすがにライダーが目立つ。駐車場で何人かのライダーと立ち話をしてラーメン村を後にする。美瑛に入ると景色ががらりと変わり、美しいカーブの丘陵が続く。「これが見たかったんや」とメット越しに叫び、メルヘンな世界に酔いしれて走る。日が傾きかけていたので、見物は翌日に回す。この旅最後のキャンプを上富良野日の出キャンプ場に定め、まるで日課になってしまったように温泉に入る。キャンプ場横の丘で、カレンダーのフォトグラフのような夕焼けのパノラマを鑑賞した後夕食の準備にとりかかる。これが最後のクッキングかと思うと少し寂しくなった。食費も底をついてきたためビールを発泡酒に切り替え、残った材料で作ったスープと缶詰を肴に晩酌。星もきれいである。気温もちょうどいい。夜はライダーの宴に誘われ12時頃までしゃべくっていた。この先母と1週間も連続で寝食を共にすることが再びあるのだろうか。ふとそんなことも考えながら眠りに落ちていく。
6月26日
最終日である。今日も早起きし、五本目の温泉、吹上げの湯で朝風呂の後、出発する。ついに天気が下り気味になってきた。体も疲れはじめていたので、雨を避けるために、一気に小樽まで走ろうということになる。美瑛での撮影会をあきらめひたすらに走った。
地方ファミレスで昼食のあと、R亭でお土産のお菓子を買込む。札幌を抜け小樽に入る頃には小雨が降り始めた。
フェリーターミナルでは旅の途中で出会った何人かのライダーと再会。礼文島で会った和泉ナンバー君もいた。彼はその後ずっと礼文に滞在していたとのこと。思い返すと自分のツーリングはいつもせわしなく動き回っていた。次の旅のテーマは「ゆとり」と「ふれあい」にしよう。
バイクをフェリーターミナルに置き、地ビール、寿司とはしごをして旅の締めをする。フェリーにバイクを積み込む頃にはもうどしゃ降りになっていた。
僕の雨男も復活、大きな事故もなく無事に旅を終えることができて良かった。いつか僕も自分の子供と一緒にこの地を訪れるぞ、と自分に約束を交わすのであった。
最後にこの場を借りて、雨男を抑えてくれた晴女の母に感謝。毎年文句一つも言わずに留守番をしてくれる妻にも感謝。
BACK